ひねもすのたりのたりのたり

自分の空戦談に関しては、他人に話したがらなかった西澤さんですが、そんな西澤さんがめずらしく語り残した空戦談があります。

予科練の先生に話した空戦談です（『予科練外史』倉町秋次）。

先生は１８年秋頃の話でしょうか、ラバウル東飛行場に来ていました。
そこで偶然機材受領のために他基地からラバウルに戻ってきていた西澤上飛曹と再会します。

そして、夜、２０４空の宿舎を間借りして、一緒に泊まりました。その時にいろんなことを語り合ったのでした・・・・。

エンジンタンクに被弾して、もうダメだ、と諦めかけた時の話・・・・。

不時着水して鱶のいる海を泳いだ時の話・・・・。

そんな中に、「弾を使わずに敵機を落とした話」が出てきます。

かれ自身の闘魂と技倆だけで敵機を落としたのです。

当時の戦闘機にとって、機銃というのはほとんど唯一の攻撃手段。戦闘機が敵機を叩き落とす手段としては、他には体当たりぐらいしか残されていません。

ところが、西澤さんは空戦後の機銃弾が残っていない状態で、新手の敵機数機（F４Uシコルスキー　翼が逆への字になっているヤツ）登場に、単機引き返していってしまったのです。もちろん、体当たりなんかするつもりは毛頭ありません。

山に誘い込んで偽装攻撃を掛けました。
１機を相手に、追ったり追われたりしているうちに、後ろに別の１機がついてきているのに気づいた西澤さん。

山の背すれすれにさっと翻ってかわしました。追いかけてきていた敵機はそのままジャングルに突っ込んでしまったらしい。

す、すごい・・・。
撃たなくても、落とせるんだ・・・・。

文章で読むと想像しづらいですが、たぶん、西澤さんはフツーの戦闘機がしないような動きをして敵機をかわしたのでしょう。
敵機は、相手が”デビル西澤”とも知らずに、「Hey！　ZEKE追い詰めたぜ！(^O^)」と調子に乗って追いかけ回していたのでしょう。
前にも後ろにも、いいや３６０度目がついている人と対等に戦っているつもりになってはいけません。
お気の毒に・・・・。

このとき、弾もなかったのに単機敵に向かっていった理由を先生に聞かれた西澤さん。

自分たちはひと空戦やってもう弾のない状態。敵は新たに登場して機銃弾わんさか状態。フツー、逃げます。逃げてもまったく問題ないと思います。「逃げる」んじゃなくて「また明日出直す」ってことで　(^o^)/

でも西澤さんは出直さなかったんです。その場で引き返しちゃったんです。

「そのまま帰ってしまったら、敵がつけあがるから」―だそうです。

零戦でも逃げるんだ、と思われたくなかったらしい。
そのまま帰ったら、「零戦でも逃げる。やつら、たいしたことない」となめられる、と。

ここだけ読むと、
「やっぱ、西澤さん、負けず嫌いだわーーーー(>_<)」
感心するやら呆れるやら・・・・ですが、西澤さん、別に自己満足のために引き返したわけではありません。

自分は敵になめられたってかまわない。なめてかかってこられてもやられるとは思わない。でも、若い連中にはやはり図に乗った敵とは戦わせたくない、ということでした。

西澤さんは戦場に出てきたばかりの後輩の若い搭乗員たちのために引き返したのです。

おおっーーーー！
なんて立派な人だーーーー(T_T)

同僚には「気が重いヤツ」とか「狷介」とか「皮肉屋」とか、性格に問題があるように言われることもありますが、↑こんな立派な人ですよ！！

ママのブログは今日からしばらくの間、『西澤さんはこんなに立派な人だった！』キャンペーン！（予定）

ところで、この西澤さんが「弾を使わずに敵機撃墜」したのは、いつなのか。
予科練の先生が、「司令が一日に三回も出撃を令した日」「艦爆隊の直衛」と言っていることから、１８年８月１５日のベララベラへの艦爆隊直掩任務の時の話のようです。
（この日、２５１空はベララベラへの艦爆直掩任務は１回ですが、２０４空が３回出撃している）

西澤さんが第２中隊第２小隊長として出撃しているこの攻撃、部隊としての戦果が「F４U×２撃墜」になっています。
この頃、２５１空は個人の撃墜戦果を記録していないので、確証はないのですが、このうちの１機が、西澤さんが弾を使わずに落としたアレだろうと思われます。