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背中2014年01月04日 22時39分58秒

『予科練外史』に、倉町先生が戦地を巡ったときのことが書かれています。

戦地で再会した9期生数人も登場します。

どの人との再会も別れも涙なしでは読めません。
中でも印象に残って、何度読んでも涙が出てくるのは、ある9期生とのこのシーン。
18年11月の話です。


(スコールの中出撃していった中攻隊を見送った後、兵舎に引き上げるシーン。すでにスコールはやんでいて、非番のものと先生は送迎トラックをやめて歩いて帰ろうとしています・・・・)


『飛行場を突っ切って行くと、暴威をふるったスコールの名残りで、滑走路は川のようだ。それでもかれらは皆、飛行靴だから少々深い水溜りでも平気だが、短靴の私はいささか辟易する。迂回しようと四、五歩歩きかけると、
「背負いましょうか。」
と中腰になって飛行服の背を向けた者がある。前川だ。
「大丈夫か。」
と私は遠慮なく、がっしりと厚いその肩に手をのべた。』


先生は前川さんに負ぶわれて、わたしなどには想像もつかないような思いにふけります。
実際に予科練を知っている人のみが抱ける”思い”でしょうか。


『「案外軽いですね。」
とゆすり上げてザブザブと音をたてて渡って行く。スコールの残した水溜りにきれいな空が映っている。
<この背中に負われるなどということは、もうあるまい。>
雨に濡れた飛行帽を見つめていると、二十歩ばかりで水は切れた。』

前川重美さん  ※雄翔館



このシーンが、たまらなく好きで、たまらなく悲しいです。