ホリブン、勘違いする ― 2008年11月20日 16時06分20秒
ホリブン、戦後に手記を発表しています。
『紫電改空戦記』
といいます。
前から何度も言っているように、ホリブンはもの静かでやさしい人だったらしいので（もちろん「自称」ではありませんよ）、内容的にはハチャメチャ空戦記好きのママには多少物足らない。
でも、ゴーストライターなしの本人執筆だとすると、表現のどこそこにホリブンの性格が垣間見えて、そういう意味ではとってもおもしろい。
また、海軍戦闘機隊の有名人、菅野直大尉や杉田庄一兵曹などとの会話が生き生きと描かれ、そこらへんもおもしろい。
そんな貴重なホリブンの手記『紫電改空戦記』ですが、１か所、ホリブンの勘違い、しかも、相当ひどい勘違いの箇所があります。
昭和２０年３月１９日。
この日は愛媛松山上空で、３４３空初の大規模迎撃戦をやった日ですが、この日の記述です。
この日ホリブンは２直で、１直目が迎撃に上がっている間、飛行場で待機（というか、空戦見物）していました。
その時の話です。
『暫くすると、松山基地東方を南下して土佐沖の空母群に帰ろうとする数十機の編隊が現れた。われわれが忌々しい思いに駈られながら空を仰いでいるとき、滑走路をゴオーッと全馬力をかけて離陸していく一機がある。
「あれは誰だ？」
「橋本中尉だ」
「あの大編隊に突っ込むつもりかな」
とわれわれは不安に思いながら見まもった。
橋本中尉は飛行学生の教程を終わったばかりの青年士官である。色の白い、おとなしい人で、部下に訓示を与えたり、叱責したりするときなど、顔をポーッとあからめるほどである。学習院出身だと聞いていた。
高度をとって粟粒ほどの大きさになった橋本機は、後上方から矢のように敵編隊の中へ降下していった。中尉は単機で数十機の敵に戦いを挑もうとしているのだ。
「帰れ、帰れ、無茶をするな」
と見まもる人々は口々に叫んだ。
純粋な勇敢さは賞賛されるべきだが、飛行時間ニ三百時間に過ぎない人が、うようよするグラマンの中に飛びこめば、自殺行為に終わるのは見えすいている。
―中略―
はたして橋本中尉は、そのまま未帰還となったのであった』
「飛行時間ニ三百時間に過ぎない人がうようよのグラマンの中に飛び込めば自殺行為」と、ホリブン、なかなか手厳しいですが、橋本中尉の名誉のためにひとこと添えると、橋本中尉、この日、未帰還になっていません。？？あれ？？
↑だれやねん、「橋本中尉だ」と断言しているのは！
ホリブンの手記に出てくるこの「橋本中尉」、いったい、どんな人かというと、橋本達敏中尉、海兵７２期出身です。
７２期は１９年の７月末だったか、８月初めだったか、その頃に飛行学生の教程を終えているので、半年以上経っています。ホリブンが言うように「飛行学生を終えたばかりの」というのはちょっと違うような気もします。そりゃあ、１７年に前線に出ているホリブンから見ればまだまだ経験不足にうつったでしょうが。
「学習院出身」というのもガセネタのようです。出身は愛知で「津島中」出身となっているのですが、弟さんの手記では師範学校から海兵に入ったと書かれてあったと思います。
どちらにしても、学習院ということはないわけで。
ただ、これはホリブンが勝手に勘違いした、というわけではなく、当時の戦闘３０１の人たちの間には結構「橋本中尉＝学習院＝貴族の出」という説が出回っていたような・・・・（他の搭乗員でもそう言っている人がいるようです）
風貌がいかにも高貴な感じで、下士官たちの間でそんな話が広まったのでしょうか。
で、当の橋本中尉は翌月４月１２日、喜界島上空で戦死されてしまったとか。
（なにわ会戦記に証言あり）
ということは、ホリブンは３月１９日～４月１２日まで橋本中尉と一緒に戦っていたわけですが。
どうして「３月１９日に戦死した」なんて勘違いしてしまっているのでしょうか。
誰か、他の戦死者と取り違えているのでしょうか。
３月１９日の戦闘３０１の戦死者は井上伊三郎中尉、日光安治上飛曹、久保典義１飛曹。
ホリブンは下士官の先任搭乗員だったので、まず下士官搭乗員の戦死者を勘違いするとは思えません。ということは井上中尉？ 井上中尉は京大出の予備士官ということですが、この人と橋本中尉を取り違えたのでしょうか。
でも、その後、ひと月近く同じ戦闘機隊にいるのですから、間違うはずないような気もするのですが・・・・。
それとも、グラマンうようよの中に上がっていったのは橋本中尉だったけれど、「未帰還になった」という部分だけ勘違いしているのでしょうか。
その後、ひと月、橋本中尉と全く交流がなく・・・・。ありえるのかな？？
橋本中尉が３月１９日と同じような状況で戦死されたのであれば、日付や状況を混同してしまってあの勘違いになったと思えなくもないのですが、戦死状況が似ているわけでもないようだし・・・・。
橋本中尉の詳しい戦死状況を調べようと思って、前に戦史室に行った時に資料を見たのですが、詳しいことはわかりませんでした。
結局わからないのですが、とにかく、ホリブンが手記に書いているのは「勘違い」、ということで。
（調べられるものなら、この「勘違い」、調べてみたいと思っています）
『紫電改空戦記』
といいます。
前から何度も言っているように、ホリブンはもの静かでやさしい人だったらしいので（もちろん「自称」ではありませんよ）、内容的にはハチャメチャ空戦記好きのママには多少物足らない。
でも、ゴーストライターなしの本人執筆だとすると、表現のどこそこにホリブンの性格が垣間見えて、そういう意味ではとってもおもしろい。
また、海軍戦闘機隊の有名人、菅野直大尉や杉田庄一兵曹などとの会話が生き生きと描かれ、そこらへんもおもしろい。
そんな貴重なホリブンの手記『紫電改空戦記』ですが、１か所、ホリブンの勘違い、しかも、相当ひどい勘違いの箇所があります。
昭和２０年３月１９日。
この日は愛媛松山上空で、３４３空初の大規模迎撃戦をやった日ですが、この日の記述です。
この日ホリブンは２直で、１直目が迎撃に上がっている間、飛行場で待機（というか、空戦見物）していました。
その時の話です。
『暫くすると、松山基地東方を南下して土佐沖の空母群に帰ろうとする数十機の編隊が現れた。われわれが忌々しい思いに駈られながら空を仰いでいるとき、滑走路をゴオーッと全馬力をかけて離陸していく一機がある。
「あれは誰だ？」
「橋本中尉だ」
「あの大編隊に突っ込むつもりかな」
とわれわれは不安に思いながら見まもった。
橋本中尉は飛行学生の教程を終わったばかりの青年士官である。色の白い、おとなしい人で、部下に訓示を与えたり、叱責したりするときなど、顔をポーッとあからめるほどである。学習院出身だと聞いていた。
高度をとって粟粒ほどの大きさになった橋本機は、後上方から矢のように敵編隊の中へ降下していった。中尉は単機で数十機の敵に戦いを挑もうとしているのだ。
「帰れ、帰れ、無茶をするな」
と見まもる人々は口々に叫んだ。
純粋な勇敢さは賞賛されるべきだが、飛行時間ニ三百時間に過ぎない人が、うようよするグラマンの中に飛びこめば、自殺行為に終わるのは見えすいている。
―中略―
はたして橋本中尉は、そのまま未帰還となったのであった』
「飛行時間ニ三百時間に過ぎない人がうようよのグラマンの中に飛び込めば自殺行為」と、ホリブン、なかなか手厳しいですが、橋本中尉の名誉のためにひとこと添えると、橋本中尉、この日、未帰還になっていません。？？あれ？？
↑だれやねん、「橋本中尉だ」と断言しているのは！
ホリブンの手記に出てくるこの「橋本中尉」、いったい、どんな人かというと、橋本達敏中尉、海兵７２期出身です。
７２期は１９年の７月末だったか、８月初めだったか、その頃に飛行学生の教程を終えているので、半年以上経っています。ホリブンが言うように「飛行学生を終えたばかりの」というのはちょっと違うような気もします。そりゃあ、１７年に前線に出ているホリブンから見ればまだまだ経験不足にうつったでしょうが。
「学習院出身」というのもガセネタのようです。出身は愛知で「津島中」出身となっているのですが、弟さんの手記では師範学校から海兵に入ったと書かれてあったと思います。
どちらにしても、学習院ということはないわけで。
ただ、これはホリブンが勝手に勘違いした、というわけではなく、当時の戦闘３０１の人たちの間には結構「橋本中尉＝学習院＝貴族の出」という説が出回っていたような・・・・（他の搭乗員でもそう言っている人がいるようです）
風貌がいかにも高貴な感じで、下士官たちの間でそんな話が広まったのでしょうか。
で、当の橋本中尉は翌月４月１２日、喜界島上空で戦死されてしまったとか。
（なにわ会戦記に証言あり）
ということは、ホリブンは３月１９日～４月１２日まで橋本中尉と一緒に戦っていたわけですが。
どうして「３月１９日に戦死した」なんて勘違いしてしまっているのでしょうか。
誰か、他の戦死者と取り違えているのでしょうか。
３月１９日の戦闘３０１の戦死者は井上伊三郎中尉、日光安治上飛曹、久保典義１飛曹。
ホリブンは下士官の先任搭乗員だったので、まず下士官搭乗員の戦死者を勘違いするとは思えません。ということは井上中尉？ 井上中尉は京大出の予備士官ということですが、この人と橋本中尉を取り違えたのでしょうか。
でも、その後、ひと月近く同じ戦闘機隊にいるのですから、間違うはずないような気もするのですが・・・・。
それとも、グラマンうようよの中に上がっていったのは橋本中尉だったけれど、「未帰還になった」という部分だけ勘違いしているのでしょうか。
その後、ひと月、橋本中尉と全く交流がなく・・・・。ありえるのかな？？
橋本中尉が３月１９日と同じような状況で戦死されたのであれば、日付や状況を混同してしまってあの勘違いになったと思えなくもないのですが、戦死状況が似ているわけでもないようだし・・・・。
橋本中尉の詳しい戦死状況を調べようと思って、前に戦史室に行った時に資料を見たのですが、詳しいことはわかりませんでした。
結局わからないのですが、とにかく、ホリブンが手記に書いているのは「勘違い」、ということで。
（調べられるものなら、この「勘違い」、調べてみたいと思っています）
